『永い時の中で』

□夢に憧れて 第二と三の間の話
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このくそじじい…













ある日の休日。
兄さんも、父さんもじい様も母さんも家族みんな仕事が休みという珍しい日に揃って道場にいる。ちなみに風音も彰子もいる。
上座に座るじい様は今日の昼食の席で道場に集まれとの指示のもと、いまに至る。

「彰子姫、風音殿、咲子さんや。こちらへ…」

全員揃うまで一言も声を出さなかったと思えば、女性陣のみ自分の傍らへと呼び寄せた。さながらプチハーレムだ。
おのれじい様め…なに、ホステスクラブへ行っているみたいにデレデレした顔しているのだ。
いや本当はそんな顔していない。
いたって真面目な顔をしているワケだが、俺にはそう見える。

ちなみに咲子とは母さんの名である。
見鬼は弱いながらもあり、この摩訶不思議の家族の母を何事も動じず務めている。時折家事を手伝ってくれる徒人姿の神将たちにもとっても親しい。聞けば母さんと父さんが結婚に導いてくれた仲人は神将たちだとか…さながら恋のキューピッド…

「さて、お前たち。」

父さんの隣に兄弟が並んで座る。思えば陰陽道を極めている…もしくは修行中の面々が揃っている。じい様の思惑が見えた気がした。

自分たちの背後に慣れた神気と妖気がする。
振り替えると徒人の姿を取った勾陣、青龍、六合、朱雀、そして封印されている魔物が姿を現した。

「当たりを引くのは誰じゃろな?」

じい様は 時折そんな遊戯めいた修業を企む。
くじを引かせて同じ組を引いた番号同士を修行させるのだ。ちなみに時間が決まっているので、神将に当たれば地獄の組手、魔物に当たれば道場を壊さないように倒す。時間内に魔物を倒せなければ、その者はじい様の嫌味攻撃と神将たち相手の組手を一人ずつ夕飯まで鍛え直される。

ちなみに年の順で上の兄と父さんが、それぞれ勾陣、朱雀、六合を相手に組手だ。

俺は青龍と手合わせをした。
手合わせをした瞬間、どあっと投げられ、受け身を取る間も無く床に叩きつけられ…
………一瞬で終わっていた。
その滑稽な様をみてじい様は大いに笑っていたが…ここは耐えろ、俺。怒っちゃ駄目だ。
次は浩正の番だった。
余り物はじい様の陰陽師の仕事で封印した魔物だろう。気まぐれでこんなイベントを起こして、自分が退治しそびれた魔物を倒させるじい様は質が悪い。そしてそれを浩正に仕組んだことがもっと悪い。

「昌行、まさゆき。」
「なに?」

じい様の隣に座っていた母が、いつの間にか俺の側にやってきた。風音と彰子が母さんの後ろをいそいそと通る。

「風音さんと彰子さんで夕御飯の準備をしてくるわね。」
「もうそんな時間なの…」

赤い陽の陽射しが道場の中を赤く照らしている。
我が家の紅三人はいそいそと道場に礼をして、母屋の方へ歩いていった。場に礼を尽くすのは当然の礼儀だ。

そうこうしている内に浩正の退魔の呪文が聞こえた。
そちらを見ると浩正の術が効力をあげ、魔物が灰と化していた。
時間内に倒していたが、ギリギリはギリギリだ。









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