『永い時の中で』

□夢に憧れて 第二と三の間の話
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「まったく浩正…じい様は悲しいぞ。この程度の魔物、ちょちょいの、ちょいっと祓わなければ立派な陰陽師にはなれんぞ。」

あぁ、すでに嫌味攻撃が始まっている。父さんと二人の兄は立ち上がり母屋の方へと戻ろうとしている。じい様の嫌味攻撃を一人で聞かないといけないのかと成親兄さんに一緒にと同行を求めると。

「残念だ、昌行。夕飯までに明日の仕事の準備をしなければならないんだ。」
「………そんなの夜やれば…」
「昌行…お前たちが生まれる前から…うん………っと、じい様のウンチクを聞いてきたんだぞ。」

あぁ、そうですか。もうすでに聞きあきたと…いうことですか。
何事も経験だと頼りのならないアドバイスを送って道場をあとにする兄たちだ。
浩正の方をみると、肩をふるふるさせながら黙ってお説法を聞いている。頑張れ浩正、もう少しだ。

「…おい。」

思いもよらぬ人に話しかけられた俺はびっくりする。あぁ、彼はいまも昔も人を呼ぶときは名前で呼ばない。

「なに、青龍。」
「組手のとき…少しひねっただろう。」
「え?」
「おや駄目ですよ、青龍。昌行様を気遣う言葉が間違っていますよ。この場合は『手合わせのときに足首を捻っているのが見えたが大丈夫か』と的確に的を射た言葉を…」
「太裳」

二人は仲がいいのか悪いのか…昔からこんな関係だ。
青龍はぶっきらぼうな節がある。それを細かくしつこく注意するのは太裳。太裳の方が落ち着いていて青龍より年下にみえるのに…青龍が言い負かされているように見えるが。

「昌行様、どこを捻りましたか。すぐに冷やした方がよろしいかと思われます。桶を用意して参りますので、青龍が水を出しますから。」
「誰が出すと言った?」
「まぁまぁ…俺は大丈夫だから。気にしなくていいよ、太裳、青龍。」

捻ったのは足首だったが、それほど妙なカンジじゃなかったし、二人の好意にお礼を言って浩正の方を見ると浩正の姿はなかった。
じい様と騰蛇だけがそこにあり、俺は二人に近寄った。

「じい様…浩正は?」
「ほーほほっ。相変わらず面白い顔するの。」

この狸爺…孫の反応を見るために説教をしたな。嘘泣きの演技や浩正がムキになる言葉を並べて、楽しんでいるのだ。

「まったく、じい様は人が悪い。」
「どこへいく。」

膝を起こして立ち上がった俺にじい様の隣でお座りしている騰蛇が尋ねてきた。

「決まっているだろ、機嫌取りにいかないと家族そろって夕飯を食べられない。」
「俺も行こうか?」
「大丈夫だよ。アイツも騰蛇に自分の苛立っている醜い姿を見せたくないだろうしね。」
「さすがお兄ちゃんだのぅ昌行。」

あんたが浩正を怒らせなければいいだろうに。じい様はホントに食わせ者だ。

「昌行」

声音が少し鋭いものがあったので背筋を伸ばし座っている祖父を見おろした。

「お前、何か隠し事をしていないか?」

祖父の千里眼は昔ほど見透かせていないと安易に分かる言葉だった。心のどこかでホッと息をついて、祖父に向き直る。

「いいえ、何も。」
「……………わかった。ほれ、早く行かんか。」

自分が引き留めたくせに、と心の中で口をすっぱくさせながら道場をあとにした。









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