立夏×草灯(原作5年後設定)

□愛無き者が手にするは。
1ページ/7ページ




「ただいま」



誰もいないと分かっていても、習慣として帰宅の挨拶をしてから、立夏は実質的な“自宅”である草灯の部屋へと入る。


5年前に清明が“死んだ”ことにより――否、“立夏”が消えてからか――青柳家は家族としての機能を失った。

そこに畳み掛けるように『ななつの月』に関する事件が重なり、ついに完全崩壊を迎えたのだ。



母は病院に入院。

それを機に父の望みどおり離婚が成立。

周囲の目を気にして立夏を引き取った父は、立夏に関心を向けることはなかった。

やがて父が母以外の女性と付き合っていると知るに至り、立夏は簡単な荷物だけ持って草灯の家に転がり込んだ。



家には必要なものを取りに行くだけという生活は、中学を卒業すると同時に終息を迎えた。

父の再婚が決まり、家には再婚相手とその連れ子が住むことになったからだ。



あくまで体面を気にする父と交渉し、
『大学卒業までの学費を出してもらう代わりに、高校卒業まで書類上は住所を変えないこと。その後も年に1回は家に戻り仲の良い親子を演じること』
という約束を取り付けることは簡単だった。



だから書類上の立夏の自宅は草灯の家とは異なる。




――バカみたいだ。オレも、父さんも……母さんも。




いま立夏の手の中にあるのは、何をしてでも守りたいと思った“家族”ではなく、共に戦い、共に傷つき、共に生きてきた、我妻草灯という名の“戦闘機”という存在だけだ。




――やっぱりオレは『愛無き』なのかな。




家族愛は一方通行のものしか知らない。

清明から受け取ったものは、愛と呼ぶには歪みすぎていた。

友だちとの間にあるものには“友情”という名前が付いている。





では、草灯との間にあるものは……?





「サクリファイスと戦闘機の“絆”、かな?」




しかし名前の違う自分たちの間にあるものも、そう言ってしまっていいのだろうか?





「でも、じゃあ何だと聞かれたら……」




底の見えない思考の泥沼にはまり込んでいた立夏は、背後に立つ人影に気付かなかった。




「何のこと?」



いきなり背後から抱きしめられ、不機嫌そうな声で問われた立夏は、一瞬呼吸が止まるほど驚いた。



「草灯、帰ってたのか」



驚愕により速まった鼓動は、そう簡単に落ち着いてはくれない。

背後から立夏の肩に顎を乗せた草灯は、頬を立夏の頸動脈にくっつけて、早鐘の如く脈打つ様を感じていた。



.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ