◆オリジナル◆
□『据え膳食わぬはなんとやら。』
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「ふわ〜終わった〜」
下校時刻が近づいた生徒会執行部部室。
笹塚夏季は大きく気持ち良さそうに伸びをした。
放課後の限られた時間で、間近に迫った文化祭の準備を行うのは、かなりの体力と精神力が必要だ。
まして、会長という立場上、個性の強いメンバーを上手くコントロールするのは本当に大変で、夏季は苛立ちを覚えながらもなんとか1週間を乗り切った。
「よし、これでやっとゆっくり出来る!」
書類を片付け、デスクに突っ伏していると、副会長の一人、2年の渋谷春太が何か紙をひらひらさせながら近づいてくるのが見えた。
嫌な予感がする。
「会長、これ」
「……なに」
「野球部から渡すように頼まれたんすけど」
体育館使用許可書。
日付は――文化祭当日。
「はあ!?なんだこれ!!」
「使用許可書」
「それは判ってるっっっ!!!なんだって当日なんだよ!!!」
「ここ、読んでください」
とんとん、と指で示した場所に書いてあったのは、目を回すには充分な内容だった。
「演劇部と合同でミュージカルだあっ!?」
あまりに大きな声だった為、各デスクに居る執行部メンバーが顔を上げたが、そんなことに構っている場合じゃなかった。
「なんだって今更こんなの出すんだよ!!」
「知らないっすよ、俺に言われても」
「だっ、ばっ」
だって馬鹿じゃないのか!?と言いたかったのに、怒りが頂点に達してしまったために上手く言葉にならない。
その苛立ちから余計にぐるぐるしてきた頭に、ぽんと軽く触れた手があった。
「渋谷、文化祭明後日だから、さすがに今提出されても困るな」
3年の副会長、高円寺馨が、夏季の頭に手を乗せたまま苦笑している。
「馨!」
「会長も、落ち着いて。今からなんて時間取れるわけがないんですから」
それもそうだ。
文化祭の当日、体育館ステージのタイムスケジュールは分単位で決まっている。
新しく演目を増やすなんて無理だ。
が、当の渋谷はニヤニヤしていた。
「先輩方、ちゃんと読んでくださいよ」
ほら、ともう一度指差したところには、汚い字でこう書いてあった。
『演劇部が使用する時間に一緒に出ます。』
「一緒に出ます、って……」
「そんな宣言をされても……」