◆オリジナル◆
□『老若男女を問わず美人はいつでも大歓迎。』
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ふぅと吐き出した紫煙に、渋谷春太は眉をひそめた。
「おいこら、未成年」
「俺のことか?」
「お前以外に誰が居るよ」
呆れたような、でも二人で交わすこういうやり取りに慣れた声が、同じベッドの中という今までは考えられない距離から聞こえる。
スポーツで鍛えられた腹筋で素早く起き上がり、春太は煙草を奪った。
「生徒会執行部の『素敵眼鏡な会計さま』のあっちゃんが何煙草くわえてんの」
嫌味はしかし、市ヶ谷朝人には何の効力もない。皮肉な笑みを浮かべ、嫌そうな顔で煙草を摘まんでいる春太からそれを奪い返した。
「似合うだろ?」
深く吸い込み、わざと隣に流れるように吐き出す。
先に気付いた春太は煙を避け、あ〜あ、と声を出してまたベッドへと倒れ込んだ。
「自ら健康を害するなんて、どうかしてるぜ」
「ほお?遊び人のお前からそんな言葉が出てくるなんて意外だな」
「遊び人とか言わないでくれる?俺はいつでも真剣よ?」
「はいはい」
「てめ……」
話を流された仕返しにと、春太のいたずらで繊細な指が、不意打ちで朝人の脇腹を撫であげた。
途端、普段は絶対に見られないであろう動揺する会計さまを見ることが出来た。
「春太っ!」
「灰落ちるから気をつけてくださぁ〜い」
「誰のせいだ、誰の!」
慌てて灰皿へと押し付けた煙草から、綺麗に煙が立ち上る。
ふわりと広がったメンソールの香り。
春太は、まだ脇腹を押さえている朝人の身体を、ぐいと自分の方へと引き寄せた。
危ないと怒りの滲んだ瞳に笑んで、頭を抱き込んだ。
「精神安定剤が必要なら、俺がなってやる」
──だから煙草は止めろ。
部屋の中に静寂が広がって、春太は自分が作ってしまったそれに耐えられず、解消すべく焦ったように続けた。
「お前、心配なんだよ。時々何考えてるかわかんねぇし」
「その言葉、そのまま返す」
え?と聞き返すと、抱き寄せたままの彼の吐息が肌に触れた。
「お前も何考えてるか判らない。それに……欲しいものが手に入らないからって、他人を安定剤に使うのはよくないと思う」
ズバリ的中。
春太が狼狽えたのが判って、思わず声を上げて笑った。
久しぶりに笑った。
「あっはは、まあ、俺も人のこと言えないからな。お前の精神安定剤になってやってもいいよ」