◆オリジナル◆
□『間接も何も、キスじゃないの?』
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確か、夏頃だった。
……本当ははっきりと覚えている。
あれは、八月に入ってすぐのこと。
笹塚夏季。
寮で隣の部屋の彼は、170センチという身長のわりに小さく見える。
それは童顔だから、だけではないと仲良くなってから知った。
「だからさ、俺だって男なの。好きだって言ってくれるのは嬉しいけど。ごめん」
また告白されたらしい。
この学院は男子部と女子部に分かれている。
だから、というわけではないだろうが、男が男に告白するのをたまに見かける。
そして笹塚は、たまに、いや、かなり頻繁に告白されていた。
「……あ」
部屋の入り口でしゃべっていたから、気をきかせて廊下の隅に隠れていたのだが、見つかってしまった。
悪い、と謝りながら近づく。
「ま〜た告白されちまった」
「今日、2回目だよね?」
「よく知ってんな」
苦笑して、彼は自室へと招いてくれた。
エアコンのよく効いた部屋へと遠慮なく入らせていただいて、床へと腰を下ろす。
彼はベッドへと腰掛けた。
「なんなんだろうなあ〜」
「なにが?」
「俺、そんなに女っぽい?」
「や、そんなことないけど。どうして?」
彼は自分のちょっと長めのサイドの髪を引っ張った。
「どこが男受けするのかな、って」
彼は彼なりに悩んでいたらしい。
多分、こういうふいに見せる可愛い仕草が原因じゃないかと思ったが、それを言うと怒りそうなのでやめた。
笹塚はしばらく悩んだあと、考えても仕方ないか、と呟いて、机の上に置いてあったペットボトルを取り上げた。
それはオレンジジュースで、こんなところも可愛らしいと思わず笑ってしまう。
「なに笑ってんの?」
「いや、この暑いのによくオレンジジュース飲めるね。余計に喉渇かない?」
「別に?俺、好きだもん、オレンジ」
ごくっと男らしく飲んでから、笹塚は、あ、と言った。
「ごめん、俺だけ飲んじゃった」
「いいよ、喉渇いてないから」
そう言って辞退したのだけれど、どうも客に飲み物を出さない、というのが納得がいかないらしい。
育ちの良さが見えて、心地いい。
微笑んでいるのを怪訝そうに見ながら、笹塚はペットボトルを差し出した。
どういうことか判らずに首をかしげると、無理矢理握らされた。
「喉渇いたら飲んでいいから」
「え、でも」
「俺が納得できないだけだから。嫌だったら飲まなくていい」