◆オリジナル◆
□★『そんなこと言うと…ふさぐよ?』
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読書に集中できず、市ヶ谷朝人は眼鏡のフレームを指で押し上げた。
原因は背後から感じる視線で、構ってくれ!という気配が強い。頑張って無視を決め込んでいたのだが、それももう限界だった。
「……なんだ」
「へ?」
間の抜けた声に呆れ振り返ると、ベッドに腰掛けた渋谷春太は、腕を組んできょとんとこちらを見ていた。
「へ、じゃない。なんだ。用があるなら言えよ」
邪魔しないと言うから部屋に上げたのに、黙ったままでも充分邪魔だ。
「……言ったら怒りそうだもん、お前」
「……じゃあ大人しくしてろ」
「してんじゃん!」
「視線が物語ってるんだよ!」
結局喧嘩である。
ちっと舌打ちした朝人に、春太は苦笑した。
「そんなに気になる?」
「別に」
「なんだよ〜冷たいなあ〜あっちゃんは」
言いながら近づいてきて、そのまま抱き寄せられた。春太の腹あたりにちょうど顔があたり、苦しくてもがくと少しだけ腕が緩んだ。
「なんだよ」
睨むと、春太の器用な指がずれた眼鏡をそっと外した。
「おい!」
「したい。」
「……は?」
「抱きたいの、お前を」
前髪をそっと持ち上げて額にキスを落とす甘い仕草が似合う男は、欲情した目をしていた。
それにあてられて、朝人はかあっと赤くなる。
「ば、何急に」
「そうなんだよねえ、俺もびっくり」
読書してる背中見てたらなんかね、と笑う春太に、もうどうしたらいいか判らなくて目を逸らす。
しかし顎を掴まれ覗き込まれると、身体の力が抜けていくのが判った。
「気持ちよくしてあげる。もう知ってるだろ?」
「……知らん」
精一杯の強がりはしかし、その気になっている春太には全く効かなかった。
「そんな事言うと……ふさぐよ?」
「んぐっ」
掴んだ顎を無理矢理上に持ち上げられ、苦しい角度で口付けられる。舌を吸われるとそれだけでぞくぞくして、朝人は春太の服を弱々しく掴んだ。
「……やっぱ、親友にしておくのが勿体無いよ、あっちゃんは」
髪を撫でながら囁く春太は、さっきより少しだけ普段の彼に近い目をしていた。
優しい目。
でもそれに甘えているのは、自分も同じ。
お互いに利用しているだけ、のはずだ。
「口説くのは本命だけにしとけ」
随分な台詞に口元を拭いながら答えると、彼は小さく笑った。
「ほんと、可愛いわ」