◆オリジナル◆
□『据え膳食わぬはなんとやら。』
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ぽかんと口を開けた夏季と溜息をついた高円寺に、渋谷は手を合わせた。
「演劇部の時間とは別に場所取りたいってわけじゃないし、お願いしますよ〜」
「……どうします?会長」
二人の副会長に見られて、夏季は息を吐いた。
全くいっつも妙な問題ばかり起こしやがって。
「……いいよ。誰にも迷惑かからんだろうし」
「やった!ありがとうございます、カイチョー!」
「ほれ。サインしたから早く持って行ってやれよ」
「おっす。お疲れ様でした!!」
言うが早いか、バッグを片手で掴むと風のように部室から出て行ってしまった。
書記の大崎蓮の溜息が聞こえる。
「みんなももう終わりにしていいぞ」
「今日やらなきゃいけないことは、ちゃんと終わっているでしょ?」
「終わりました」
会長、副会長の声に、2年の会計、市ヶ谷朝人が答える。
その横で蓮も頷いた。
「よし、じゃあお疲れさま」
「お疲れ様でした」
手早くデスクの上を片付けて、市ヶ谷が出て行った。
後を追うように蓮も帰る。
静かになった部室に、夕日が奇麗に差し込んだ。
最後に叫んだせいで少し痛む頭を押えつつ椅子の背にもたれ、ぼ〜っと外を眺めていると、少し離れた席でパソコンに向かっていた高円寺が声をかけてきた。
「会長も帰る支度をしてくださって結構ですよ?」
「あれ、馨は?」
「俺はもう少し残って、明日の会議の書類をまとめます」
こちらを見てにっこりと笑い、彼はまたモニターへと目を戻した。
カタカタとキーボードを叩く音が響く。
仕事に集中している横顔を夕日が照らしているのを見ていたら、なんだか切ないような心細いような気持ちになってきた。
なんだか彼が遠くへ行ってしまっているようで。
「……なあ」
「なんです?」
相変わらず指はボードの上を滑っている。
目すら、こっちを向かない。
「こっち、向けよ」
カタ。
ふいに手が止まる。
視線がゆっくりと夏季を捕らえる。
「どうしました?」
どうしたかって?
寂しくなりました、なんて言えない。
3年にもなって、そんなこと。