◆オリジナル◆

□『間接も何も、キスじゃないの?』
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ちょっと機嫌を損ねたかと、ひやっとしたけれど、受け取ったことに満足したらしい。

彼は欠伸をしながらベッドにごろりと横になり、天井を見上げた。

「な〜、馨、好きな子とかいる?」
「……ん、どうだろ」
「なんだそれ」

あははと笑って彼はこっちを見た。
欠伸のせいか、目が潤んでいる。
心臓が音をたてた。

「俺ね、最近色々考えるんだよ。もし恋人、とかいたらさ、今のつまんない世界から抜け出せるかな、とか。」
「笹塚、つまらないの?」
「まあね。家に居るよりは全然楽しいけど」
「そっか」

その気持ちは判る。
実家に居たくなくて、寮があるこの学院を選んだ。
彼もそうなのかもしれない。

「馨ならもしかして恋人いるんじゃないかなって思ったから、話聞かせてもらおうと思ったんだけど」

そっか、馨も居ないのかあ。
そう呟いて、彼は目を閉じた。
あんまり無防備にならないで欲しい。
急激に喉が渇いて、渡されたペットボトルを口へと運んだ。
ごくり。
喉が鳴って、その音を合図にしたかのように笹塚が瞳を開いた。

「間接チュー」
「え?」
「俺とお前。間接キスしちゃったな」

横になったまま、無防備なまま、そんな台詞を言わないで欲しかった。
頭と心臓のどこかが、ぎゅっと掴まれた。
そんな気がした。

「――間接も何も、キスじゃないの?」

一瞬、誰の声か判らなかった。
低く掠れた声。
自分が発したものだと気付く前に、身体が勝手に動いていた。
ベッドに近づき、膝立ちになって笹塚を覗き込んだ。
両手を驚いている彼の顔の横に置き、呟く。

「ねえ、誘ってるの?笹塚」

心臓が苦しくて、眉を顰めた。
なんだ、これ。
誰だ、これ。
こんな自分、知らない。
何故だか泣きそうになった。
それが伝わったのだろうか。
笹塚がふっと小さく笑った。

「ん。誘ってる」
「笹塚……それは」
「ごめんね、俺、お前のこと好きなんだ」

ごめん。
もう一度呟いて、彼はゆっくりと起き上がって。
そのまま、唇と唇が触れ合った。
重なっていたのは少しだけ。
すぐに腹筋の力を抜いて、彼はベッドへと戻った。
そして横を向いて。
ごめん。
また口にした。

「間接だけじゃなく、直接しちゃってごめん」
「おい、おまえ、なんで」

どうしてそんなに謝る――。

「気持ち悪いよな。男にキス、されたなんて」
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