◆オリジナル◆

□『基本は三倍返し…お判り?』
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笑いを含んだ声。これは確実にからかっている。
が、夏季の肩がぴくっと震えたことに気付いたのだろう。撫でていた手が止まった。

「あれ……もしかして準備してた?」

嘘をついても仕方がないので小さく頷くと、うわぁ〜と普段出さないような声を出し、馨が体重を預けてきた。

「おわっ!おま、支えられないっ」
「なにそれ夏季、反則だよ」
「はあ?」

何がなんだか判らず、顔を見ると──。

「え、馨……なに赤くなってんの?」
「うるさい」
「んんっ」

世にも珍しい真っ赤な馨にきょとんとすると、怒ったような顔で口付けられた。触れた唇はしつこいけれど優しくて、馨が怒っているわけではないと判る。
ゆっくりと離れていく唇を見つめていると、馨が苦笑した。

「そんな物足りませんって顔するなよ」
「し、してない!!」

今度は夏季が赤くなる番だった。

「冗談。で、なにくれるの?夏季」

耳たぶをいじりながら、問いかけられる。

「や、耳弱いからやめ、ろっ」
「判ってて触ってるから」
「性格悪い」
「いいじゃないか。気持ちいいなら」
「ちが、っ……くそっ、渡さないぞ!そんなことしてると!!」

言うと同時に指が止まる。
馨は案外いつもしつこくて、言ったって止めてくれないのに。

「悪い、はしゃぎすぎた」

……聞き間違いだろうか。

「俺、もらえるなんて思わなかったから嬉しくて。だから渡さないとか言わないでくれ、頼む」

真剣な言葉に、夏季はふはっと笑った。

「たいしたもんじゃないよ?」
「夏季からもらえるってのが大事なんだよ」
「うぁ〜恥ずかしいな」

言いながら抱き締める腕を外し、引き出しから小さな箱を取り出した。
それを渡すと、馨はしばらくじっと箱を見つめていた。あまりにも長く見つめているのでなんだか恥ずかしくなり、開ければ?と呟くと、ようやく包みを開けた。
中から出てきて物は──、

「ブレス。皮なんだけど、ほら、留め具のとこがチェーンになってるだろ?長さも調節出来るし、なんか馨に似合うかなと思って」

えへへと照れながら笑うと、馨は左腕をまっすぐ前に伸ばした。

「夏季、つけて?」
「ん?いいよ?」

箱から取り出して腕に回す。つけ終わると、馨は腕を自分に引き寄せた。
しゃらっとチェーンの音が鳴る。
馨は嬉しそうに笑った。

「鎖で縛ってくれたの?」
「……はあっ!??」
「なんだ、そういうことじゃないのか」

残念と笑う顔があまりに幸せそうで、夏季はたまにはこういうのもいいなと思った。

「ありがとう」
「いいえ、どういたしまし、っておあっ!!!」

ふいに押されてバランスを崩した身体は、真後ろにあったベッドへと沈む。そのまま押さえつけられ、夏季は目を見開いた。

「ちょ、なにこれ!」
「お返し」
「え、いらないって!つかお返しはホワイトデーじゃねぇの?!」
「それはそれ、これはこれ」
「意味わかんねぇし!つかどこ撫でて」
「胸」
「答えなくていいっ、ばかっ!!」

ぎゃあぎゃあ騒ぎながらも、本気で抵抗するはずもなく。

「たっぷり御礼してあげる」
「い、いい、いらない」
「そんなこと言うなよ、夏季」

耳に直接吹き込まれる色っぽく歪んだ声。

「基本は三倍返し……お判り?」

いつの間にか馨さま(S属性)が降臨されていた。
目が怖い。

「お判らないです……」
「まぁ気持ちいいことしかしないから安心しろ」

言いながら服を脱がしていく男に、夏季は溜め息をついた。

「なんでこうも性格変わるかな」
「なに?」
「なんでもない」

そんなとこも含めて好きなんだからしょうがない。
チョコより甘くて熱いお返しをいただくべく、鎖骨に口付けた馨の髪に指を絡め、引き寄せた。


―END―
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