【第1話】
サ「パン出来ましたぁっ!」
教官「駄目だぁっ!作り直してこいっ!」
サ「はいっ!(なんでなんでしょう?)」

ー1時間後ー

サ「パン出来ましたぁっ!」
教官「どれどれ…駄目だぁっ!作り直してこいっ!」
サ「はいっ!(また。なんで?)」

ー1時間後ー

サ「パン出来ましたぁっ!」
教官「どら…駄目だ駄目だ!作り直しっ!」
サ「教官殿っ!」
教官「なんだぁっ!」
サ「はいっ!私のパンは何故いけないのでありますか?!」
教官「わからんかっ?!」
サ「はいっ!わかりません!」
教官「貴様はパンを技術で作っている!それがいかんのだ!ここでは、シャバのパン作りは通用せんぞ!突撃・突撃・突撃の予科練精神でこねんでどうするか!」
サ「(なるほど。自分には、生地をこねる際の突撃精神が足りなかったのか。なんて恥ずかしいんだ!)はいっ!すいませんでしたぁっ!もう1回お願い致します!」
教官「よしっ!作り方始めっ!」
サ「はいっ!」

サテツンの成長物語は始まったばかりである。


【第2話】
サテツンが予科練に入る1年前。サテツンは近所の親しい兄さんと河原へ遊びに行った。
サ「兄さんは泳ぎが上手いなぁ。」
兄「泳ぎが出来ないとお国の為に働けないからね!」
サ「兄さん。僕は予科練に入りたいんだ。」
兄「予科練に?将来はパン屋になりたいのかい?」
サ「はい。兄さんのようにお国の為に練りたいんです。」
兄「サテツン!その言葉はパン屋に対する単なる憧れからかい?」
サ「違います!憧れからではありません!」
兄「ホントかな?!では、僕が試してやる!ついてこい!」
サ「はい!」

ー2人崖へ行く

兄「ホントにパン屋になりたいなら、ここから飛び降りてみろ!」
サ「こんな崖から?」
兄「パン屋になりたいなら出来るはずだ!」
サ「…わかりました!やります!」

ー躊躇するが飛び降りるサテツン

サ「飛び降りたよ!兄さん!」
兄「よく飛んだね!サテツンなら予科練で、しっかりやっていけるだろう。」
サ「ありがとうございます!お国の為に頑張ります!兄さんのように!」
兄「これからは、つらいことがたくさんある。でも、頑張るんだよ!」
サ「はい!兄さん。」
そしてサテツンは、1年後に入学することになる。


【第3話】
サテツンが予科練に入って数ヶ月。アジアは、欧米により侵略され植民地とされていた。それを憂う我が神国、大日本帝国は、アジアの恒久平和を目指し、かしこくも大元帥陛下のもと、国民一丸となって日々鍛錬にいそしんでいた。予科練もまた、月月火水木金金の猛訓練であった。

教官「おい。サテツン。貴様は何故、今、ここで練っているかわかるか?」
サ「はい!それは、憎き鬼畜米英に練り勝つためです!我が大日本の小麦粉は、他国とは違います!粉一粒にいたるまで、全てに大和魂が宿っています!その粉を突撃精神でこねるから、日本は無敵なのであります!」
教官「その通りだ!毛唐どもの小麦粉は軟弱であるから、こねても生地にならん。まとまりがないからだ。練る力も、軟弱であるから、まったく話にならん。口の中が粉っぽくて堪らんらしいぞ。」

ー全員大笑いー

サ「早く一人前に練れるように励みます!」

サテツンは心に誓った……。
【第4話】
予科練の飯は、意外にもパンではなく御飯(ごはむ)である。それは、日本が戦いに勝利した時に得た捕食(食の捕虜)が供された。それは「敵を知り己を知れば…」の格言を体現したものである。当時「鬼畜米英」と言われた米。つまり御飯の角度から見たパンというものを知る為である。
サテ「畜生。この粒を見ていると、こねたくなるなあ。」
教官「こねたくなるか?こいつめ。一端の口をきくようになりおって。」
サテ「教官殿。パンを食いたいであります。」
教官「その思いやよし。…サテツン。御飯の立場からパンを見るとどうだ?」
サテ「は。御飯の立場からでありますか?…何故我々御飯は、優秀なパンになれないのであろうか。練るという高尚な技が、何故我々御飯には施されないのであろうか…そう考えていると思います。」
教官「いいか。高尚な小麦粉は、いつか焼かれるものだ。高尚なパンとは、即ち高尚な小麦粉なのだ。焼かれ所を間違えるな。焼かれ時期を逸した小麦粉は恥と思え。」
サテ「はっ。教官殿。御国の為に立派にこねり焼きます。」

技量は半人前だが、気概は一人前のサテツンであった。

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