夢小説

□カルメンの喜劇
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昔から、見た目には自信があった。

男なんて吐いて捨てるほど居たし、どんなに冷たくしても寄ってきたから、私は恋といわれるものをしたことが無い。


だから、恋というものがどういうものか分からなかった。










「なぜ、泣いているのだ」





泣いている?
恋どころか、親兄弟が死んだ時だって悲しいなんて思ったことがないのに、彼は私にそう言った。





『何を言っているの?目が見えないのか、頭が可笑しいのね。』





私がそう言うと、彼は怒るどころか眉を下げて困ったように笑い、私の頭に手をのせて言った。





「そうかもしれないな」


『ふん。気安く触らないでよ。』





私がそう言って手を払うと、彼は少し考える素振りを見せてからまた口を開いた。





「私と共に来ないか?」


『私が、貴方と?さっき会ったばかりで名前も知らないのに?』


「そうだが、独りなのだろう?」


『私は独りが良いの。』




私が言うと彼は、そうか、と本当に残念そうに言った。

丁度その時、誰かを呼ぶ声がして彼はそれに答えると、私に何か言いたそうにしていたが、私は彼に背を向けて足を早めた。





『劉備……。』





誰かが呼んでいた彼の名前を呟きながら。





















それから暫くして、彼、劉備が巴蜀に国を建てたという話を耳にした。
呉の君主、孫権の妹と婚姻を結んだと言う話と共に。





『……。』





それを聞いた時、何故か胸が締め付けられた気がして、気が付くと頬には生暖かい液体が伝っていた。





『ああ、きっとこれが恋、なのね』





こんな苦しいものだったなんて。


あの時彼に着いていけば変わっていただろうか。
それより、彼と出会わなければ良かった。

でも、今更考えたところで変わらない。
惜しむらくは、感情というものを私が知らなかった事だろうか。























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