...

□.
1ページ/1ページ



それはとても、つまらない物語で。

「ねェ、晋」
「アァ?」
いつものように不機嫌そうな声を出す彼に問いかける。
「ノスタラデムソの予言って今日だっけー?」
「…ノストラダムスか?」
「あぁー、そう、それー」
のんびりと返すと、晋はプッと吹き出した。
「わーらうなぁー」
別に怒ってないけど一応そう言っておくと、うるせーという答えが返ってきた。
話の趣旨がずれる前に、ノスポラバメスの予言の話に戻す。
「でさー、その、ノスパラチャイズド「オイ、もう原型がねェぞ。誰だソイツ」の予言なんだけどさー」
「アー?」
どうでも良さそうに生返事をして晋は雑誌から視線を外さない。
あたしは止んできた雨を見ながら独り言のように言う。
「当たると思う?今日、地球がなくなるんだけど」
あたしの言葉に晋は無言のままだ。
ちょっと口を尖らせて溜息とともに吐き出す。
「あーあ。おもしろくなーいの」
「何がだよ」
ようやく雑誌から顔を上げて晋はあたしを見た。
あたしも晋を見つめ返す。
「だってさ、考えてもみてよ。
今この瞬間にも誰かがどこかで死んでるんだよ?
それなのにあたしたちがいるこの地球はびくともしないの。
それが当たり前すぎるから。
なのに、地球が死んだらそれと同時にあたしたちも死んじゃうの」
わずかに目を伏せて呟いた。
「地球がないと、あたしたちは生きていけないのに。あたしたちがいなくても地球は生きていけるの」
晋は少し躊躇って、ゆっくりと口を開いた。
「しかたあるめー。そういうモンだ」
やや諦めたような口調だった。
「俺らはただのちっぽけな存在だからな。地球の方が何万倍もデケェ。もうそいつは、必然的なモンだろう」
「でも、」
あたしが再度口を開くと、晋はあたしの瞳をじっと見つめてしっかりとした口調で言った。
「そんなに嫌なら、そんなにそれが嫌なら、俺だけを見てろ」
それはもう、確信に近いような。
「地球のことも世の中のことも考えずに、俺だけ見てろよ。そしたらオマエには、俺しか映らねェ」
ふっと微笑み、彼はあたしを抱きしめた。
「それで、いいだろう」
あたしも彼を抱きしめて、笑いながら頷く。
「うん。それで、いい。それが、いいよ」
そう言うと、どちらからでもなく互いに見つめあい、そっと唇を重ねた。
長い長い、口付け。
あたしが、晋で埋まっていく。
もう、晋しか見えない。
ゆっくりと、確かめ合うように、深く、甘く。
あたしは晋だけを、その瞳に映して、そして。
世界は終わりを告げ始めた。

  捨て色

(ああ、幸せ、)
(あたしはもう、晋しか要らない)
(他ノ色ヲ全テ捨テテ貴方ダケヲ映シテ死ヌノ)



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ