金色のコルダ

□喜びのハーモニー
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月森はそう思った自分に驚いた。


「(日野に…俺は影響されている…?)」


じゃあ何故影響される…


考えは答えにたどり着かず巡るばかりだ。



「……くん……月森くん。」


月森は香穂子に声をかけられハッとなった。


「どうしたの…?」


心配そうな顔をする香穂子に、


「いや…。なんでも無い…。」


と月森は言った。


「とにかく、明日は良い練習が出来るといいな。」


「そうだね。楽しみだなぁ。」



香穂子は笑って明日に思いを馳せた。


すると丁度、予鈴がなった。


「あっ。予鈴だ。そろそろ行かなくちゃ。」


香穂子は食事の方付けをし始めた。


月森も、方付けを始める。


そしてふとこう言った。


「誰かと食事をするのは楽しいものだな。」



それに香穂子は、


「それじゃあまた、一緒に食べようよ。」


そう言って微笑んだ。


「ああ。」


月森もそう言って微笑んだ。


「じゃあまたね。」


香穂子はそう言って屋上の扉をくぐった。



そして階段を駆け下りながら思った。



いつか…“誰か”が私の名前になるといいな…。




―――ーー‐

翌日の放課後。


アンサンブルメンバーは屋上に集まっていた。


ファーストヴァイオリンの香穂子、セカンドヴァイオリンの月森、ヴィオラの加地、チェロの志水の四人だ。



「じゃあ早速合わせてみようか。」


加地がみんなに声をかけた。


それにみんな楽器を構えた。


「じゃあ5拍目からで。」


加地はそう言って、足でトントンと合図を出す。

そして…


全員が一斉に弓を引いた。

メロディーが流れていく。





そして曲が終わる…。


「初めてにしては…良かったんじゃない…?」


加地が苦笑いをして言った。


志水はむっとする。


「音が…バラバラでした…」


「た…確かにね…。」


香穂子もあははと苦笑する。


すると


「日野。」


月森の鋭い声が、香穂子にとんだ。


「はいっ。」


思わず背筋が伸びる。


「君はテンポが定まっていない。1人で走ったり置いていかれたり…。それから中間部のこのフレーズ、弓が追いついてないし、雑音が入る。」


容赦ない指摘が飛んできた。


「はい…スイマセン…。」


香穂子は申し訳なさそうに謝った。


「ははは…さすが月森だなぁ…。」


加地がそんなことを言うと…


「君もだ。日野の演奏に耳を傾けすぎて、テンポと音程がファーストに合わせられている。確かにファーストを聞くことは大事だがもっと全体を聞いてくれ。」


と月森は加地にも的確な指摘をした。


「あっ。バレた?ついつい日野さんの音が耳に入ってしまって…」


加地くんは困った顔をして、肩をすくめた。


「加地くん…!」


あーもう。相変わらず加地くんは恥ずかしい事ばかり言うんだからっ。



「それじゃあ…やっぱり…原因は香穂先輩ってことですか…?」


志水がおっとりしたしゃべり口調で、とてもキツい事を言った。



「う…っ……すいません…。練習してきます。」


香穂子は泣きたい気分だった。




この日は後数回あわせてから練習を終えた。







数日後。



「うーん…やっぱりここが弾けない…。」



香穂子は屋上で練習をしていた。


月森に指摘された所を一生懸命やっていた。


しかしある程度は出来るのだがしっくりこない。


ヴァイオリンを奏でて弓を引く。




すると


「違う。そうじゃない。」


後ろから声が聞こえてきた。


その声に手を止めて振り向く。


そこには…


「月森くん…!」


ヴァイオリンケースを持っている月森がいた。



「そうじゃない。少し待っててくれ…。」



月森はそう言って、香穂子の近くに来て、演奏の準備をしはじめた。



そして、


「いいか。そこはもう少し軽く、なめらかに弓を動かすんだ。肩に力をいれすぎず、こんな風に…」


ヴァイオリンを構えて弓を引いた。


「ほら。やってみろ。」

月森はそう言って香穂子を見た。



香穂子は頷いて、月森に言われた通りに弾いてみた。


すると…


「あ…っ…弾けた…!」


今まで出来なかったところがいとも簡単に弾けるようになった。



「すごいすごーい!月森くんありがとう!」


嬉しそうに、そして無邪気に笑う香穂子に月森は赤面した。


そして動揺した。



ドクン。


またも胸が熱くなったからだ。



「(何故こんなにも気持ちが高揚する…?)」



そんな月森に香穂子は気づかない。



「あのさ…月森くん。迷惑かもれないけど…一度通しで聞いてもらえないかな…?その…アドバイスが欲しいというか…。」


もぞもぞとそう言う香穂子に


「ああ。構わない。聞こう。」


とあっさり承諾した。



「本当に!?よし…。じゃあ…」



香穂子はヴァイオリンを構えた。



そしてふうっと息をはいてから弓を引いた。




ドクンドクン。



何故かは分からないがどんどん月森の心臓のビートが上がっていく…。



彼女の演奏を聴いていると胸が熱くなる…


否。


彼女の演奏する姿を見ると胸が高鳴る…。



何故…何故…?



不意に月森の脳裏をある言葉が掠めた。


「(彼女に惹かれている…?)」



彼女の何に…?



「(音色に…いや……彼女自身に………!!)」


その時月森はようやく答えに達した。



そうか。自分は…



「(彼女に惹かれていたんだ。彼女の音に…そして彼女自身に…。)」


ふと演奏する香穂子を見ると、益々胸が高鳴った。



愛おしげにヴァイオリンを演奏する姿…。



「(俺は…日野の事が……好きなんだな…。)」



月森は今やっとそれを自覚した。



考えてみればそれで今までの事に説明がつく。




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