金色のコルダ

□喜びのハーモニー
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この胸の高鳴りも…顔が熱くなる原因もすべて…



彼女が好きだから。



そう思うと今まで君と過ごしてきた時間が愛おしく感じる。



散々冷たい態度や言動を取ってきたが…



「(これからはもう少し改善せねばな…。)」



今までの自分なら他人にどう思われようとも良かったはずだ。


いや、今でも他人にはどう思われても良いかもしれない…


ただ…


君には好かれたい。


そう思う。


「(こう思えるようになったのも、君のおかげなんだろうか…)」



月森がそんな風に考えていると、ちょうど香穂子の演奏が終わった。



「どう…だった…?」


香穂子は少し不安そうに月森に聞いてきた。



そんな香穂子に月森は、


「前より確実に良くなっていた。この調子で練習をすれば問題ないだろう。」


と言った。



「本当!?…良かった。」


月森の言葉に香穂子はホッと胸を撫で下ろした。



そんな香穂子を見て、



「君は…よく頑張ったと思う…。」


そう月森はボソッと呟いた。



その月森の頬は、心なしか赤い。



「え…?」



香穂子はキョトンとした。


今…月森くんはなんて…



月森は聞き返されて一瞬困ったような顔をしたが、一拍の後に…



「よく頑張ったな…。日野…。」


こういって微笑んだ。



「つ…月森くん…!?」


今…月森くんが…誉めてくれた!?


ほめられなれてないから、照れるよー…


それに…



あの月森くんに言われるなんて…


思ってもみなかった。



「ありがとう…月森くん…!」



香穂子は恥じらいながら微笑んで言った。



しかし、月森は一瞬でいつもの大真面目な顔に戻って、


「まだ、なおすべき所はあるがな。」


そう言った。



そんな月森に香穂子はやっぱり月森くんだなぁと苦笑して、


「月森先生。ご指導のほど、よろしくお願いします。」


そういって深々と頭を下げた。


「先生、というのはやめてくれ。」


そんな香穂子に月森は困った顔で言ったが、どこか嬉しそうにも見えた。






創立祭当日。


「うわー…。どうしよう…っ…緊張してきた…。」


香穂子は不安そうにヴァイオリンを抱えていた。


「日野さん!大丈夫だよ。いつもの日野さんみたいに楽しんで弾けばいいんだよ。」



加地はにっこりと香穂子を励ました。


「大丈夫です…香穂先輩…。アンサンブルですから…。…月森先輩や加地先輩…それに僕も一緒に演奏します…。」


志水も香穂子を励ます。


うぅ…。私後輩にまで励まされてる…。情けないなぁ…。



「そうだ。それに、今まで君は一生懸命練習してきたんだ。努力はけして裏切らない。」


月森も香穂子を励ました。



「ううぅ…。みんな…!……そうだよね。うん!みんな…楽しもう…!」


香穂子は立ち上がった。


『続きまして、本校生徒による演奏発表です。』


私たちの出番がアナウンスされた。



四人は幕裏からステージに向かった。



立ち位置に着き、一度整列をし、礼をする。


そして全員楽器を構える。


その時月森は香穂子の方をチラリと見た。


すると香穂子の弓を持つ手が震えていた。



そんな香穂子に月森は、


「大丈夫だ。」


と香穂子にしか聞こえないぐらいの小声で囁いた。


「(月森くん…)」



その声を聞き、自然と香穂子の震えが止まった。



そして加地がみんなの目をみて確認する。



それから足でトントンと合図を出し5拍目で一斉に弓を引いた。



軽快なリズムが流れていく。



華やかで美しい旋律…



月森はふと香穂子の方を盗み見た。


すると…



香穂子は先ほどのように緊張したりふるえている様子はなく…



いつも通りの彼女だった。


本当に楽しそうにヴァイオリンを奏でる姿…。


これが“音楽”なのだと思った。



君の音色に引き込まれていく…


君の音に自分の音が響きあって心地良い…



君を好きだと気づいたあの日から、こんな風に音を重ねる喜びを知った。



「(願わくは…これからずっと俺と奏でて欲しい…)」



喜びの…




ハーモニーを…。






―――ーー‐


「お疲れ様ー!」


演奏が終わって、楽屋に戻った四人はそれぞれ一息ついた。


楽器の手入れをしたり、飲み物を飲んだり…。



「今日はすごく良い演奏だったんじゃない!?」


加地は興奮気味に言った。



「はい…。とても良い演奏でした。…今もまだ…あの時の余韻が残ってます…。」


志水もとても嬉しげに微笑んだ。


「そうそう!あの余韻は抜けないよね!それに会場もすごく盛り上がったし…」

それから加地と志水は今日の演奏について語り始めた。



一方香穂子も今日の演奏には、達成感を感じていた。


「(今日の演奏は確かに良かったな…。みんなと一つになれたみたいですごく楽しかった。)」



やっぱりアンサンブルって良いなと改めて思った。


そんなことを考えていると、


「日野。」



月森が声をかけてきた。



「月森くん。今日は良い演奏だったね。すごく楽しかった。これも…月森くんのおかげだね。」



香穂子はそう言って微笑んだ。


「いや。今日君が良い演奏が出来たのは君自身の努力のおかげだ。」



そう言った月森の表情はとても柔らかかった。



「ありがとう月森くん。…あのね、月森くん。私…今日改めて思ったの。…音楽って良いなって…。」



香穂子はそう言ってヴァイオリンを見つめた。


「私演奏しててすごく楽しかった。…それで演奏が終わったらお客さんが沢山拍手をくれて…喜んでくれて…。楽しそうな顔をしたお客さんを見た時すごく嬉しかった。」


香穂子はヴァイオリンを見つめたまま、愛おしそうに笑った。



「だからね…私これからも音楽の素晴らしさ、楽しさをみんなに伝えていきたいなって思うの。」


そう言って顔をあげた香穂子は月森を真っ直ぐ見て、笑った。



それはとても綺麗な笑顔だった。



そんな香穂子に月森は、


「君にならきっと出来るだろう。」



そう言って微笑んだ。







俺にもいつか出来るだろうか…。



音楽がみなに喜びや楽しさを伝えるように…



俺は、君にこの思いを伝えることが…。





いつしか君に


この“好き”だという気持ちを…


届けられる日が来るのだろうか…。




end
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