金色のコルダ
□喜びのハーモニー
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【喜びのハーモニー】
「あっ…!いた!月森くーん!」
廊下を歩いていた月森は、後ろから聞こえてきた声に歩みを止め、振り返った。
声の主は、走ってこちらに近づいてきた。
「日野か。なにか用だろうか。」
相変わらずの無愛想な顔つきで、月森はこちらに来た香穂子に言った。
「丁度いいところで見つけたから。」
彼女は手に持っていた紙の束のうち、何枚かを、はいと言って月森に差し出した。
見るとそれは…
「楽譜…?」
「うん。次の創立祭で演奏することになってね、この曲に決まったんだ。」
笑顔で話す香穂子に対して、月森はムッと顔をしかめた。
「何故俺に?まだそんなことをやるとは言っていないが…」
やっぱりこうきたか。
予想通りの反応に香穂子はシュンとなった。
「そう言うとは思ったんだけど…セカンドバイオリンがどうしても必要で…。私知り合いとかいないし、それに…」
月森くんと演奏したいから…。
香穂子にとって月森に頼みたい一番の理由はそれだった。
でも…やっぱり迷惑だよね…。
「ううん。…やっぱりなんでもないやっ…。ごめんね。呼び止めちゃって…。」
香穂子は残念そうに俯いて、元来た道を振り返った。
トボトボと歩いて行こうとすると、
「待て。」
不意に月森が呼び止めた。
ピタリと香穂子が足を止める。
「まだ何も言っていないだろう。」
月森の言葉に香穂子は振り返った。
「どうしても足りないというのなら、参加しよう。」
その言葉に香穂子の目は嬉しそうに輝いた。
「本当に!?ありがとう月森くん!」
パタパタと再び月森の元に駆け寄って思わず月森の手を取った。
どうしても足りないなんて口実だけど、それでも月森くんが了承してくれたことが、とても嬉しかった。
月森は大げさなほど嬉しそうにする香穂子が理解できなかったが、そんな香穂子を見て胸がぽっと暖かくなるのを感じた。
しばらく香穂子は月森の手を握っていたが、目の前の月森が固まってることに気付くと、ハッと手を離した。
男の人の手を握っていると言うことを自覚したら急に恥ずかしくなった。
「ごっ…ごめん…!じゃあ私行くねっ。あ…練習の時は、声をかけさせてもらうから…っ。」
香穂子はそう矢継ぎ早に告げると、はにかんで手を拭りながらその場を後にした。
一方月森はしばらくその場に立ち尽くした。
「…い……おい月森っ。」
月森はクラスメイトに話しかけられるまでその場に立ち尽くしていた事に気づかなかった。
「な…なんだろうか。」
「なんだろうか、じゃねぇよ。お前が廊下で突っ立ってるから声かけたんだ…ってどうしたんだ…?月森、顔が赤いぞ?」
そしてその時初めて、月森は自分が赤面していることに気づいた。
確かに…顔が…熱い。
最近月森は胸が暖かくなったり、顔が熱く感じることが多くなっていた。
このような感覚は味わったことも無かった。
どうしてアンサンブルをOKしてしまったのか自分でもよくわからなかったが…
そうか…
「(ただ…知りたいと思ったんだ…。……この感覚の原因を…。)」
君と共に音楽を奏でれば何か分かるんじゃないか。
そんな期待をアンサンブルに込めて…。
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