Short 1

□スミレ色の恋物語
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乾いた寒い風が吹き抜けて行った。



道の脇に寄せられていた、葉っぱがつられて宙を泳いだ。




閑静な住宅街を抜ける道を、大空のような髪の色の少年が歩いている。



その重い足取りは、燃えるような朱い夕陽を目指す。




彼はまた、ため息を零した。




そして、「今日もまた一人か…。」と呟いた。




どうやら、主と一緒に通学をしたかったらしい。


彼はふと、ひきこもりの主の事を思う。



「今回は仕方ないんですけどね…。」と言いながらも、綾崎ハヤテは下を向いた。



今日は、三千院家には誰もいない。



皆、用事があって出かけているのだ。



だから、
これから家に戻っても誰も居ないと思うと、ハヤテはやはり憂鬱になるのだった・・・







突然、沢山の雀が鳴きながら飛び立った。



そういえばここで左折しなければ、と我に返ったハヤテは、体の向きを変える。

すると
暗い路地にうずくまっている人が見えた。



「!!
あの人は……」



すぐに駆け寄ってハヤテは声をかける。



「大丈夫ですか!?
愛歌さん!」



苦しそうに咳をしていた彼女は振り返り、スミレの様な長い髪が靡いた。



「綾崎…君。」



その声は余りにも弱々しく、瞳の輝きもまるで無かった。



「救急車を呼びます!」とハヤテは自分のカバンを漁る。


普段の彼からは想像できない程焦っていたが、それを愛歌は手で制した。



「だ、大丈夫だから…」
と言って立ち上がろうとして、愛歌はよろめいてしまう。



「危ないっ!」



叫ぶと同時に彼女の体を受け止めたハヤテ。


それから
やれやれと言いながらも、愛歌を軽々と抱き上げた。




――つまり、お姫様抱っこである。



「綾崎君――?///」



周りの葉っぱが、舞い上がった―――。



「なら、家まで送りますよ。」



いつもの笑顔でそう言った彼は、頬を赤らめた愛歌の「うん……//」という言葉を聞いて駆け出した。



涼しい疾風を感じて翔る2人の横顔を、夕陽が暖かく照らしていた。。




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