夢を見る(ハリポタ)

□冷たい指先
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「おい」

後ろから乱暴な声が聞こえた。声の主がさくさくと雪を踏み締めながら近づいてくる。

「おいって」

さっきより少し苛ついた声で、また呼びかける。

「…」

私は湖のほとりに突っ立ったまま、ぴくりとも動かなかった。

白い息が、少し強く吹きつける風にさっとながれていくさまをぼんやりとみつめながら。

「しかとすんなよ」

真後ろまで来た足音の主ーシリウス・ブラックが私を肩に手を置いた。

「なによ」

努めて平静を装って返事をしたつもりだったのに、私の声は温度を持たないそっけないものになった。返事をしたこちらのほうがびっくりするくらいに冷たい、つきはなすような。

小さく舌打ちするブラックの気配。

ごめんね、でも今は人に気を遣う余裕なんてないんだ。

当たり散らすのが嫌でわざわざ人のいないとこまで出てきたのに、追いかけてきたあんたが悪いのよ。

私は心の中でひとりごちる。

「…さむいじゃないか」

ブラックは小さく呟いた。

「じゃあ、談話室戻りなよ」

私は、やっぱり平静を装ってそういった。

やっぱり、温度のない、そっけない返事になった。

「お前はどうするんだよ」

「あたしは、いい」

「よくねえよ」

「いいのよ、もうしばらくこのままで」

「…俺がよくないっていってんの」

変な押し問答。イイっていってんのに。

「うっとうしいからあっちいって」

苛々してきたあたしは、ははっきりそう言いはなった。

流石のブラックも黙り込んだ。眉間にくっきり皺を寄せて。

そう、そのまま私の事なんて放っておいて。

私は内心ほっとしてブラックが去っていくのを待った。



でも、いくら待っても気配が消えることはなかった。

湖を写していた視線を背後へ向ける。

ブラックはじっとこちらを見つめながら、そこにいた。

「…なんでいるの」

「さっき言っただろ。俺が良くないって」

耳も、鼻の頭も大分真っ赤になってる。

時折小さく足踏みもしてる。

「寒いんでしょ」

「寒いよ」

聞くと、ブラックは素直に答える。

「風邪引くよ」

「かも」

「なんでいるの」

ブラックは、何か言おうとして、辞めた。視線を下に向けて、何か思案している。

「…なんで」

私は、

「なんでそこにいるのがブラックなの」

言って、後悔した。

乱暴なのは私の方だ。

どうしてここにいるのがルーピンじゃないんだろう。

素直にそう思ってしまった私はなんて冷たいんだ。

いないのは当たり前だ、さっき振った人間が追いかけてくるはずない。

玉砕。そんな言葉がよく似合う告白だった。

ブラックは悪くない、そこにいただけ。

私が砕け散るのを横で見ていただけ。

けれどもブラックは、私の言葉に傷ついた顔はしなかった。

「そうだ」

うなずきながら、私をまっすぐ見つめながら言った。

「ここにいるのは俺だ。リーマスじゃない」

「…傷をえぐりにきたの」

「そうじゃない」

「じゃあ何!」

私はついに大声を上げた。

声と同時に悲しみがぶわっとこみ上げてくる。

格好悪く、あとからあとから涙がぼろぼろこぼれだした。

ああ、だから放っておいてほしかったのに。

「あ〜…もう!」

ブラックはそんな私の前で自分の頭をぐしゃぐしゃかきむしった。

そして私の手を取って

「ほら、手、冷たいじゃないか」

そう言うとおもむろにさすりだした。

私のとは違う、節くれだった指、私のよりひとまわり大きな厚い手のひらが、私の両手を覆う。

「あっ…あんたの…手も…っ」

十分冷たいじゃないかとしゃくり混じりで抗議すると、そうか?と適当な返事をする。

それから私の手を自分のコートのポケットに押し込んだ。

「ほら」

ほらって何さ。驚いて顔を上げると、ブラックが笑った。

「男はリーマスだけじゃないだろ」

さっきの「そうだ」はそういう意味?

瞬間、涙がとまるのを感じた。

いやだ、この人、乱暴って言うより不器用なんだ。

思い至って、急に恥ずかしくなった。

視線がばちっと合ったと思ったら、ブラックの頬が赤くなって、さっと視線をそらされた。

気が付いたら私の頬もなんだか上気していた。

見られたのかしら、今のまぬけな顔。

ますます恥ずかしくなる。

「えっと…」

ブラックがわざとらしく咳払いした。

「とりあえず、戻ってから暖かいもんでも飲め。それで機嫌直せ」

なんともブラックらしい、乱暴、基い不器用な慰め方。

でも、胸の奥がジンと暖かくなる。

私は小さくうなずいて、二人で寮へ向かって歩き出した。

彼のポケットに私を手を入れたまま。





傷は、もしかしたら思いの外早く癒える、かもしれない…



end

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