凍えるような寒い冬も
茹だる様な暑い夏も

何十何百の命を奪い一人血の海の中立ち竦むとしても


全てはアナタと共に在る為に




□■ 血と汗と涙の裏側のハッピー ■□




「…はっ、ぁっ…」
「ね、気持ちイィ?」

春にはまだ少し遠い夜、
空には冴え冴えとした月が輝いている。

カーテンから漏れる月明かりに照らされたイルカの体は、見蕩れるほど綺麗なバラ色に染まっていた。

胸元を伝う汗に舌を這わせるとビクリと跳ねて後口をきゅっと締め付けてくる。
白いシーツに流れる黒髪も酷く扇情的でイルカの全てがカカシを煽る材料となった。


「あっあっ、や…っ!カ、カッ…んぅっ」
「くっセンセ…っ、そんなにキツクしたら…っ」

更に強い快感を味わいたくて最奥を抉る様に何度も何度も突き上げる。
腹と腹の間で揺れている彼の雄は白を含んだ雫を絶え間なく零していて、もう絶頂が近い事を告げていた。


「あぁ…ッ!」

一際キツい締め付けと同時に弾けたイルカの精液が互いの腹を汚す。
立ち上る青い匂いにクラリとしながら、自らもイルカの中に灼熱を放った。


「…っカ、カカシ…さ…」

終わった後の緩慢な動きでイルカがカカシの頬に手を伸ばす。
荒い呼吸のまま貪る様に接吻けられて、まだ足りないのだと強請られた。

「もっ、と」
「ちょっ、ちょっと待ってイルカ先生」

常にはないイルカの様子に胸がざわめく。

明日旅立つ自分の任務ランクは今回イルカには知らせていない。
火影直々の命であれば例え受付所にいるイルカでも情報は入ってこない筈だ。

早くと急かしながら先程の情欲に濡れた瞳とは違う涙がみるみる溢れ出す。
急いで拭おうとする手を掴み、ベッドへと縫い付けた。

「せんせ、知ってるの?」
「…っ、知りません!」

カカシからの質問に、目尻に涙を溜めたたままぷいと顔を反らせる。
どうして、誰が、と疑問は募るけれど、イルカが任務の内容を知っているだろう事は零れた涙が雄弁に語っていた。

「嘘。じゃあどうして泣いてるの?」
「泣いてません」

頑なに答えようとしないイルカを抱き起し、向かい合わせに座らせる。
顎に手を添えて視線を合わせると泣き顔のまま抱き付いてきた。

「誰に聞いたんですか」
「………五代目が教えて下さいました。守秘義務があるのは分かっています。だけど…っ」

ちっ、と心の中で舌打ちをする。

確かに、何時もは守秘義務はあれどイルカにだけは大体の内容を告げていた。
だが今回は内容が内容だけに、徒に心配を掛けさせたくなくて黙っていたのだ。

三代目亡き後、公務を良く知るイルカを五代目が重宝がっている事は知っているが、イルカに甘い所も三代目から引き継ぐなんて。

極秘任務のくせに火影自らバラしてどうするんだと頭の中で悪態を吐きつつ、抱きついたまま顔の見えないイルカの頭をぽんぽんと叩いた。

「大丈夫ですよ心配要りません。しばらく会えなくなっちゃうけど、ちゃんと帰ってきます」
「でもっ、特Sランクだと聞きました!凄く難しい任務だって、貴方でさえ無傷では帰って来られないだろうって…!」

そんな事まで言いやがったのかと溜息を吐き、次に遭ったら猛抗議だと空を睨む。
悲痛な表情で見上げてくるイルカの頬を両手で包んで鼻頭に軽くキスをした。

「確かに今回の任務は結構難しい任務です。まぁ傷の一つや二つは受けるでしょうね。
だけど大丈夫です。貴方がココで待っていてくれる限り、俺はちゃんと帰ってきますから」
だから、もう泣かないで。


約束など忍である自分達には何の意味も持たない事くらいお互い良く知っている。
しかし自分はこれしか零れる涙を止める術を知らないのだ。


「カカシさん…」
「多分帰還は夏頃になると思います。一緒にお誕生日をお祝い出来ないのが非常に心残りですが…」

任務先でプレゼント買ってきますねとおどけたふりをしてみれば、ごちんと威勢の良い頭突きをお見舞いされた。

「プレゼントなんてどうだっていいでしょうがっ!アンタが五体満足で帰って来りゃそれで十分です!!」
「あ、先生ダイターン。俺自身がプレゼントですか。でも返品はききませんよ?」

殴られない様に両腕をホールドして頬に何度もキスを落とす。


「…生きている貴方しか欲しくありませんから」
肩口に顔を埋め、イルカは辛うじて聞き取れる位の小さな声で呟いた。

「ご主人様の仰せのままに」

悪戯っぽくウィンクをしてそう答えると、泣き顔のままくしゃりと笑ってそっと接吻けをくれた。



泣きたくなる程優しいキスはイルカ先生の涙の味がした。




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