「…5・4・3・2・1・ゼロ」
時刻は深夜0時。たった今、日付が5月26日に変わった。

「あぁん?何か言ったか?」
「いや、何でもなーいよ。お仕事お仕事っと」

日付の変わった今日は愛しいあの人の誕生日。
綿密に立た俺の計画からいくと、今頃カウントダウンを終えて誕生日を告げる甘い口付けをあの人に送っているハズ、だったのに。

「…コレって絶対ワザとだよねぇ」
陰謀陰謀っ!実はあの人が可愛くって仕方ないクソジジィの陰謀に違いない!

「ブツブツ言ってんじゃねぇよ気持ち悪ィ。…おらっ次来るぞ!」
飛んできたクナイの雨を交わしながら隣で応戦中のアスマに悪態を吐く。
「今日が何の日か知ってるでしょっ?!なのにどーして俺がこんなトコにいなきゃなんないワケ?!」
「きょお〜?何かあったっけか?」
グシャァ
ガスッ
ドカッ
「今日はイルカせんせのお誕生日なのっ!ホントは一日休暇のハズだったのにっ!!」
「おー、イルカの誕生日か。そらツイてねーなぁ」

全く以ってツイてない。
よりによってこの日に忍賊の討伐加勢を命ぜられるなんて。
アスマは昨日から単独でこの任に就いていたが、相手の忍の数が情報よりも多い上、敵頭が中々の幻術使いらしく少々梃子摺っていたらしい。
確かに、切っても切っても這い出てくる敵には正直ゲンナリする。
「ったく、なんでこんなに人数いんのよ!タダの賊なんでしょ?!」
「そうカリカリすんなって。頭さえ見つければ直ぐ片ぁつくだろーよ」

悠長な事は言っていられない。ここから里までは超特急で行っても17、8時間程の距離だ。何としてもあと6時間以内にケリをつけなければ。
どうしても今日、彼におめでとうと伝えたい。

「…もー頭来た。どーなっても知らないからね…」
「え、おい、コイツらまだ下っぱだぞ!こんなトコでチャクラ使うなって!」
「問答無用っ!!火遁・火龍弾ッ!!」

ゴォォーッッッ
「あっちーッッ!!馬鹿かテメェはッ!?」
「ふん、コレで暫くは追ってこれないでしょ。ホラさっさと大将さんトコまで行くよっ!」
行く手を遮る様に辺り一面は火の海となった。鎮火するまでは暫く追跡出来ないだろう。今のうちに敵頭を見つけ出さなくては。


「…必ず今日中に帰るからね!」
待ってて、イルカ先生!!
決意も新たに、走る足に力を込めた。


* * * *

am6:00

ジリリリリリッガチャンッ
「んーっぅ…」
枕元の目覚ましを止め、伸びをする。
何時もは大抵カカシさんに抱き締められたまま寝ている為伸びをする事も叶わないけれど、今日はその邪魔者もいない。

『ごめんねイルカ先生。明日はお誕生日なのに…』
昨日の夕方、これから任務に出なくてはならないのだと半泣きで謝っていた彼を思い出し、思わず苦笑する。
帰還予定は27日。つまり、俺の誕生日は丸々里外という事になる。
壁に掛けられたカレンダーの今日の日付には、赤ペンで花マルが書かれていた。

「もう誕生日がめでたい歳でもないんだけどな…」

誕生日なんて、あの人が騒ぎ出すまでは思い出しもしなかった。
去年まではいつも通りの日常。たまにアカデミーの生徒から花を貰ったりもしたっけ。
それをあの人があんまり煩く言うものだから、実はほんの少しだけ楽しみにしていたのだ。

「任務なら仕方ないよなぁ…」
大した任務ではないと言っていたけれど、どうか無事に帰って欲しい。
「お土産は無傷でいいのよカカシさん、ってか」
昔町で見かけたポスターの標語を捩って一人ごちる。
プレゼントは何が良いかしつこく聞かれたけど、欲しい物なんて何もない。
ただ、貴方が無事俺の元へ帰ってきてくれたら、それだけで十分なのに。

「さーてと、支度支度」
本当は彼に無理矢理バースディ休暇を申請させられて休みの予定だったのだが、任務の話を聞いて急遽取り止めにした。
一緒にいるはずだった相手は任務中なのだから、このまま休んで同僚に迷惑を掛ける必要もあるまい。
それに――― 一人で過ごすよりは全然マシだ。


少しだけ沈んだ気持ちとは反対に、窓の外はスッキリとした五月晴れだった。


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