「イルカせんせーーっっ!!」
「ん?」
夕方、アカデミーでの仕事を終えて明日の打ち合わせの為職員室へ向かっていると、向こう側からナルトが大きな声を上げて走ってきた。
その背後にはサスケとサクラの姿。
どーんっ、と効果音付きでタックルをかましてくるナルトを受け止め、頭をわしゃわしゃ撫でる。
「よう、お前ら。任務はもう終わったのか?」
追いついたサスケの頭も撫でてやると、普段はクールなコイツも少し擽ったそうな顔をして微笑んだ。

「これから報告書を出しに行くところなんです。今日はカカシ先生が任務で留守なの」
「でさっでさっ!今日イルカ先生誕生日だろっ?だからみんなでお祝いしよーと思ってさっ!」
「…もしかしてこれから受付か?」

突然の申し出に思わず目頭が熱くなる。
「どーしたお前たち…こんな事されると先生泣いちゃうだろォ…」
堪えようとする前にぽろり、と涙が零れた。

「えっせんせっ!どうしたんだってばよ!」
「だっ大丈夫か?!」
「きゃーっ!ちょっと先生っ!!」

嬉しさの余り三人一緒に抱き締めると、サクラから抗議の声が上がる。
「三人ともありがとなっ!今日は先生がラーメン奢ってやる!!」
「やったー!!」
「…それじゃ誕生日の意味ねぇだろ」

まだ残りの仕事がある事を告げ、30分後にアカデミーの前で待ち合わせる事にした。
気が付くと、現金なもので朝の沈んだ気分はどこかへ消えていた。


* * * *

久し振りのナルト達との食事はとても楽しかった。
ナルトとサスケからはどこで見つけたのか動物のイルカの形をした小さなぬいぐるみを、サクラからは女の子らしく可愛らしい花束をプレゼントされた。
帰り際会計をしようとしたら、『俺達ってばもう一人前の忍だからなっ!誕生日くらいご馳走するってばよ!』と俺の分まで払ってくれた。
一楽の後は近くの公園で色々な事を語り合う。修行のことや先日行った波の国での事、他の班の子供達の様子など。
いつまでも子供だと思っていたのに一歩一歩着実に成長している彼らを知り、大きな嬉しさと一抹の寂しさを感じた。
楽しい時間というのは本当にあっという間で、もう時刻は9時を過ぎていた。

「なんだか気を遣わせたみたいで悪かったな」
「いーってば!今日は誕生日なんだから」
なぁっ?とナルトが言うと二人とも頷く。
「私達も久し振りにイルカ先生と一緒にいれて楽しかったです!」
「……カカシがいれば、こうはいかなかっただろうがな」
「そうだってばよ。カカシ先生、いーっつも俺達のジャマばっかしてさぁ。先生達男同士なのに仲良過ぎだってば」
「ハ、ハハ…」
サスケの呟きは明らかにナルトの意味するところとは違う気がしたが、敢えて触れないでおこう…。
「明日もカカシ先生お休みなの。今日は紅先生が代わりに監督して下さったけど、明日は一日修行だわ」
幻術、もっと教わりたかったなぁ、と口を尖らせる。
「カカシ先生が帰ってきたら成長の跡をお見せ出来るよう頑張れ!じゃ、今夜はもう遅いから気を付けて帰るんだぞ。サスケとナルト、サクラを頼むな」
「まーかしとけって!サクラちゃんは俺が守る!」
「サスケ君だけで十分よ。むしろナルトはジャマ」
「サクラちゃんヒドイッ!」

言い合う2人を後目に、おもむろにサスケが耳元に口を寄せてきた。
「…一人でも大丈夫か?」
「は?」
突然の言葉に意味が分からない。頭の上にクエスチョンマークを浮かべていると、焦れた様にサスケが続ける。
「カカシがいなくて大丈夫かって聞いてるんです」
「カカッ…!」

何故ここでカカシ先生の名前が出てくるんだ?!まさかコイツ俺達の事知ってるのか?!

「ぷっ…アンタ分かり易すぎ。カカシが惚れるのも分かる気がするぜ」
「サ、サスケッ!!おまっ…!」
「あーっ!何二人で内緒話してんだってばよ!つかイルカ先生、顔真っ赤だぞ?」
「なんでもねーよ。帰るぞ」
ふい、と背を向けると、片手をあげて歩いていってしまう。
「おいサスケーっ!待てってば!じゃ、イルカ先生またなーっ!」
「先生お休みなさーいっ!あーんサスケ君待ってー!」
「おぉ、おやすみー…」

遠ざかっていく子供達の背に向けて、力なく手を振る。
余りの衝撃に動くことが出来ず、その場で立ち尽くしていたが、やっとの思いで歩き出した。頭の中では先程のサスケの言葉がぐるぐる回っている。


(なんでサスケが…?もしかして実は皆知ってたりするとか…?)

昔から鋭い子だとは思っていたが、次からどんな顔して会えばいいのかを考えると冷めたはずの頬がまた熱を持つ。


(まっ、まさかカカシさんが話したのか…?あの人ならやり兼ねん…)


これは帰ってきたらキッチリ問い質さねば。うんうん。
あれやこれや考えながら、ぽつりぽつりと家路についた。


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