ぼくたちの、かあちゃん

□ぼくたちの、かあちゃん (17)
1ページ/1ページ




ちょっと家の用事を済ませてくるから待ってろよー!と私たちを家まで送り届けた後
また自転車を飛ばして、自分の家に帰って行った小平太。
…もしかしたら小平太のやつ、用事があったのに、心配して私たちに先に会いにきてくれたのかな?
でもこれでやっと静かになったー、と思って縁側に座って
外で虫を捕まえて遊んでいる左門と三之助と外を眺めていると、庭から誰かやってきた。



「…オラオラ、どけどけーお前ら。」

「わー!なんか来たー!」

「きゃー!かあちゃーん!!」



その人物に威嚇されてぎゃーっと声をあげながらバタバタと走ってきた左門と三之助。
縁側にあがって、そっと私の背中に隠れる。
…この子たち、いつのまにか人見知りになっちゃったのかしら。



「文次郎、久しぶり」

「おう、名前。たまたまそこで小平太に会って、お前が帰って来てるって聞いて驚いたぞ。」



田舎って狭い、すぐに情報が広がっていくなあ、と感心していると
俺にも連絡の1つくらい入れたらどうなんだよお前は、と悪たれ付きながらドカッと私の横に座る文次郎。
仕事終わりなのかシャツを着ていて、あちーっとうな垂れながら首元をパタパタとさせている。
…もともとオジサン顔で老けてる老けてる言われてたから、昔とあんまり変わんないね。



「…………なに怯えてんだ。コイツ等は。」

「怖い顔してるからだよ。ほーら、文次郎笑って笑って。」

「ケッ、んなことするか。左門、三之助こっちに来い。」



私の後ろから文次郎の様子をうかがっていた左門と三之助。
ほら怖くないぞ、と手を広げて抱きしめてやろうと構えている文次郎だったけれど
イヤだー!っと一目散に逃げていく2人を見て笑ってしまった。
なんだかんだ子供が好きなのに、懐かれないんだよね文次郎って。
その光景をみて私が思わずクスクスと笑ってると、笑ってんじゃねーぞと頭を叩かれた。



「もー、相変わらず暴力的ー、そんなんじゃ本当に一生結婚できないよ」

「うるせえ!別にいいだろうが!」



そう私が言うと、顔を真っ赤にして声を荒げる文次郎。
結婚願望も実は人一倍あるのに、そうやってすぐ怒って大きい声出すから女の子が逃げちゃうんだよーだ。
でも仕事終わりで可哀相だから冷たいお茶でも出してあげるか、と思って立ち上がると



「あっ!!」

「ん?」



つい大きな声を出してしまった。
だって、文次郎の隣にあるのって、それって…



「スイカ!」

「あ、これか。忘れてた。」

「わあ!すごい!おっきい!」

「おー、そうだろ。家で冷やしてあったヤツをわざわざ持ってきてやったんだぞ。」



文次郎がいつのまにか持ってきてくれていたのは、おっきなスイカ。
こんな大きいスイカは都会のスーパーに売ってないし、あっちだと高くてなかなか買えなかったから思わず興奮してしまう。
だって、スイカって夏って感じがするでしょ?



「わあ!文次郎!見して!!ほんとだー!!」

「大きい!文次郎すごい!おばけスイカだ!!」



大きなスイカがあるということを嗅ぎ付けて、左門と三之助も寄ってきた。
文次郎も嬉しそうに、俺が持ってきてやったんだぞとスイカを見せびらかしている。
文次郎も私がスイカが好きって覚えていてくれたのかな?
聞いたらきっとたまたまだって言われるんだろうけど…。



「ねえ、文次郎、おねがい早く切って、切って」

「…昔から好きだよな、ほんと。」



フン、と呆れたように笑う文次郎。
やっぱりちゃーんと覚えていてくれたんだ、ありがとうね。
嬉しくなって文次郎の手を引っ張って立たせると、大きな背中を押して台所まで連れて行く。
ワクワクしながら、スイカを切り分ける用の包丁とお皿を準備すると
しょうがねーなー、と言いながらも嬉しそうに笑って文次郎はスイカを切ってくれた。



「あー、おしいー」

「甘いだろ。今年は出来が良いんだ。」



大きいのに、甘いスイカに齧り付く。
さっきまでの外の熱気が嘘みたいに、涼しく思えた。
あー、夏だなあ。



「文次郎さ、仕事、けっこう大変みたいだね」

「同期が使えなくて、俺にばっか仕事が回ってくるんだよ、ペッ!」



文次郎も公務員試験に受かって、役所で働いてるんだっけ、難しいからよく分からないけど…。
脳みそまで筋肉でできてるって思ってたのに、意外に頭良いんだもん…むかつく。
そんな人がスイカの種を人の家の庭に飛ばすんだもん、ほんと下品だからヤメテ。



「プッ!文次郎見てた!?飛んだとんだ!」

「ズルイぞ三之助!僕もやるから見てて文次郎!」

「ねえ、文次郎!2人が真似するから止めてってばー」

「まー、いいじゃねえか。名前に似てどうせ勉強できねえんだろ?俺が教えてやろうか?」



文次郎が何気なく言った言葉。
一瞬昔を思い出してちょっと、悲しくなった。
きっと、私が道をそれ始めたのは、高校生の時から。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
文次郎は悪態つきながらも、優しさであふれてそうですよね
次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ