ぼくたちの、かあちゃん

□ぼくたちの、かあちゃん (18)
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「ほれほれ!お前等の力はこんなもんか!」

「がああー!!」

「うおおー!!」



もう夕暮れに近づいて来た。
食べ終わったスイカも片付けて、食器も洗って、今日は充実してたなーなんてかみしめる。
都会だと仕事と子育てに追われてクタクタになってしまう日がほとんどだったけれど、実家は時間がゆっくり過ぎているみたい。
そう感動に浸っている私を尻目に、3人は寝っころがって腕相撲をしていた。



「文次郎、あんまり左門と三之助をイジメないでってばー」

「虐めてるんじゃない!鍛えてやってるんだ!」



左門と三之助は両手で文次郎の片腕をなんとか倒そうとしているけれど、ビクともしていない。
文次郎に適うわけないのに、男の子って負けず嫌いだよねえ。



「きゃー!かあちゃん!みてみて!!」

「かっけえ!俺もこうなれる?」

「お前等も鍛えればなれるぞ、格好いいだろ。」



いつのまにかシャツを脱ぎ捨てていて、2人に腕の筋肉を見せつけている文次郎。
もう、大の大人が人の家で簡単に脱がないでよ…。
しかも、前より筋肉質になってるし…。
おじいちゃんになってもマッチョなんだろうか、と想像するとゾッとした。



「文次郎…、まだ鍛えてるの?」

「鍛錬あるのみだ!」

「ボディビルダーにでもなるの?ほどほどにしておきなよ。」

「名前!お前、鍛えてる身体のほうが好きって言ってただろーが!」

「は?私そんなこと言ったっけ?……ぎゃー!!」



そんなにムキムキは好きじゃないのに文次郎はいつの話をしているだろう、とのん気に考えていたら
額に血管を走らせてズンズンと私に近づいて来ていた文次郎と目が合う。

あ、やばい、怒ってる…!

そう思ってそんな文次郎から逃げようと背を向けると、ガシッと腕を掴まれた。
うわ遅かったと後悔しているうちに、文次郎に軽々とお姫様抱っこのように持ち上げられる。



「ねーえーっ!おろしてってば!」

「フン、黙ってろ。これくらい重くないと鍛錬にならない。」

「文次郎スゲー!かあちゃん重いだろ?」

「大人だからな。三之助が乗っても余裕で持ち上げられるぞ。」

「僕のかあちゃんだぞ!落とさないでくれよ!」

「左門!足にまとわりつくな!暑い!」



…三之助と左門にそう言いながら、私を持ち上げスクワットしだす文次郎。

なんだこの絵面は…。
…て言うか、私そんなに重くないもん。
…夏だからか前より少し痩せたもん。

勝手に文次郎の筋トレメニューに加えられて腹立たしい。
左門はかあちゃんを下ろせーっと文次郎の足にしがみついて離さないし。
三之助は俺も持ち上げてーとキラキラした眼差しで文次郎を見ていた。
人気者になった気分なのか、文次郎が嬉しそうで…むかつく。









「あー、疲れた。名前、一休みさせろ。」



さんざん人のことを持ち上げといてお礼も言わずに
私を下すと、正座して座れって命令してくる文次郎…。
え…それって、絶対膝枕しろってことじゃんか…。



「えー、ヤダよ。暑いじゃん」

「ケチケチすんな。」



いいから早くしろ、と眉にしわを寄せて言う文次郎に折れた。
まあ、私くらいしかこういうことしてくれないもんね…。
可哀相に…と思って仕方なく正座して座ってあげると
ドカッと横になって、私の膝に頭を乗っける文次郎。
小さい頃に王様ごっこ、とかいってこういうことしてあげてたのが悪かったな…。



「ねえ、いつまでやればいいの……わっ!文次郎!」

「わっ!…今度は何だよ」

「……目の下のクマすっごいよ。」

「やかましい。」



文次郎の顔をまじまじと見て思った、昔より確実にクマがひどくなっている!
残業続きなんて言ってたけど、そんなに忙しいのかな。
きっと怒ってばっかりいて眉間の血流が滞っているんだよー、と
マッサージ師になったつもりで、文次郎の目のまわりをマッサージをしてあげる。



「どーお?きもちい?」

「……そうでもない。」

「そうだ、耳かきしてあげよう」

「……この前みたいに奥までほじくるんじゃないぞ。」

「大袈裟だなあ、三之助ー耳かきとってー!」



小さい頃から文次郎くんは怖い、すぐ怒るって女子たちは近づかなかったけれど
こんなにも優しくしてあげてる私に感謝しなさいよ、と思いながら耳かきを手に取る。
左門と三之助の耳かきしてあげてるから昔より腕前は上がったんだよー、と言うと黙ってしまった文次郎。



「名前、……次はもっと早く帰ってこいよ。」



小さな声で、耳まで赤くしてそういう文次郎。
ふふ、なにそれ、ツンデレなの?
その姿があまりにも似合わなくて、可愛くなくて、笑ってしまった。



「……はいはい、文次郎ちゃん寂しかったでちゅねー」

「違うわ!!この!バカタレが!!」



頭をポンポンと撫でると、照れ隠しかフンッと目をつぶった文次郎。
いいんだよ、文次郎は口下手だって知ってるもん。
昔から素直じゃないんだから、本当に。





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潮江文次郎に耳かきしてあげ隊
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